椿の話です
この町の海におりていく広い坂道の途中に大きな椿の木があります
街では道路整備の度にこの椿が交通の邪魔だとのことで協議されました
椿の撤去は必然との結論でその作業に取り掛かるのですが
常に作業の進行に支障が生じます
取り掛かる作業員がにわかに熱をだし全身が震えて作業が不能になります
次に変わった人も体に不祥事が起こり仕事になりません
こんな状態が常に起こり又この椿に手を触れた人も気を失うという事例があり
木の撤去はあやふやのまま現在までそのままになっています
今の時代にそんなことがあって町の振興計画に支障をきたすことが
理解できないと多数の人たちの意見です
そのことに関して様々な噂が流れます
この椿には強力な樹霊が宿っている
昔 ここを通りかかった修験者が気に食わぬことがあり椿に呪いを込めたとか
その他 噂は数限りないが 真相は不明である
未だに椿は街の計画には動ぜずすんなり枝をひろげて立ち続けている
花のシ-ズンには落花した赤い花が妙にギラギラひかっているとのこと
不思議 不可解なことではあるが 誰もがこのことは知っているにもかかわらず
進んで口にする人は少ない
一方 この地域では椿は大変珍重されていた
椿油は菜種油以上に大切にされていた
いたるところに椿がありその種を拾い集めた
実は石のように固いので「かたいし」とも呼ばれていた
かたいしに関しての仕事は老人が担当していた
雑木の丸太を庭の敷居にしてその中で集めてきたかたいしを広げて日にほした
乾いたかたいしがやがて割れて中から茶褐色の実が飛び出した
もうすここし昔は個人の家で油を搾っていた
その家の小屋の奥に古びた木製の道具がおかれていたが再びその道具の出る幕はなかった
私が子供の頃高い椿の垣根の囲いのなかで老婆がゆっくり椿の種を集めている姿を
よくみかげていた
白い手ぬぐいを頭にかぶり土の上にしゃがみ込んでいつまでも根気よく働いていた
終わりかけた椿の落花が庭の隅にある風景を懐かしく思い出す
もうすっかり消えた昔のいい風景、、、椿には沢山の思い出があります